着物の値打ちは分からなくても、ご依頼者の想いは分かる

ボクは染み抜き屋なんですが、購入もしくは誂えてから何十年と経ったお着物のお手入れを承らせていただくことが日常です。

染み抜きというのは始めから終わりまで全て手作業であり、料金は手間賃ですので、手間と時間がかかればかかるほど、料金も上がって行きます。

全体にシミ等がある場合は、ご依頼者様の想像を超える金額のお見積りになることも少なくありません。

というか、着物のお手入れを依頼したことのない方の多くは、いくらぐらい掛かるのか想像もつかないのではないかと思います。

そんな時、ご依頼者様からいただく質問の多くにこのようなものがあります。

「この着物には、これだけのお金をかける値打ちがあるんでしょうか?」

いや~、このご質問、正直困ります(笑)

何故かと言うと、作ってから何十年も経っていて尚且つシミだらけのお着物、仮に着物の買取店などに査定してもらったら、ビックリするような安い金額か、買い取り自体を断られてしまうかもしれません。

なので、仮にお着物の現在の価値を機械的に回答すれば、ほぼ価値はない、という回答になってしまうからです。

ですが、ご依頼者様が知りたいのはそういうことではないですよね。

だいたい、処分しても良いと思っているなら、最初から当店のようなお店に相談はされないはずです。

そのような時はいつも、ボクはこのようなお話をいたします。

「正直申しまして、呉服屋さんでも作家さんでもない私には、このお着物の市場での値打ちというのは分かりません。ですが、お客様がこのお着物をどうしてもまた着てみたいという想いは分かります。このお着物の市場価値が何百万円であっても、全く着たいと思わないのであれば染み抜きは不要ですし、仮に市場価値がゼロであっても、お客様がこのお着物を着たいという気持ちがある限り、私は全力でお客様の想いを叶えるために努力いたします。」

まぁ、実際にはこんなに固い感じではなく、色んな事をお伺いしながらのもっとゆるい感じのトークになりますけどね(笑)

ご依頼品の値打ちを決めるのは、ご依頼者様自身

同業の職人さんの中には、商品の値打ちを細かに査定し、お手入れする価値があるかどうかなどを判断する方もおられるようですが、ボクの考えはちょっと違って、上に書いたようにお品物の値打ちを決めるのはお客様自身だと思っています。

だって、ボクの仕事は磨いた技術と知識でお客様の想いを叶えることであって、お品物の値打ちを決めることではありませんから。

例え一千万円の着物であっても、フリマで買った百円の着物であっても、することも料金も変わりません。同じです。

着物に関する知識はあるに越したことはないですが、知識をひけらかして講釈を垂れるのは、職人の本分から外れることだと思っています。

表舞台へと出ても、あくまでボクは主役ではありません。主役はご依頼者様なんです。

【浴衣の塩素系漂白剤による脱色の染色補正(色修正)】

浴衣にシミがあったので、漂白剤を使って染み抜きされたそうなんですが、塩素系漂白剤を使ってしまい、思い切り色が脱色してしまっています(汗)

浴衣 漂白剤による脱色 色修正前

浴衣ということもあり、水洗いが前提ですので、お洗濯を繰り返すうちに段々また修正した部分が薄くなって脱色した状態に戻っていくことをお伝えしての染色補正となりました。

浴衣 漂白剤による脱色 色修正後

あまり手間をかけ過ぎると料金も高くなってしまうので、極力目立たなくする方向での修正となりました。

皆さん、ご家庭で染み抜きする際は、絶対に塩素系漂白剤は使わないでくださいね。