悪ではなく惡という字を使ってみたかった、中二病の染み抜き屋です。
ボクの仕事の正式名称は、染み抜き屋ではなく、染色補正(せんしょくほせい)といいます。
この染色補正という仕事は、元来(今でも)あまり表舞台には出てこない仕事なんですね。
だって、業界関係の人以外で染色補正って知らない人の方が多いでしょ?(笑)
表舞台にあまり出てこないということは、業者間取引が主な取引形態だということになります。
ボクもついつい使ってしまうのですが、今風に言うと「BtoB」というやつです。
物であれサービスであれ、表舞台に出ずに仕事を請け負うことを、細かいことは抜きにすると、「下請け」という取引形態になります。
うちもそうです。
ボクが10年ほど前に染み抜き専門店を立ち上げて一般消費者の方とのお取引(BtoC)を始めるまでは、BtoBのみの下請けだけの業務形態でした。
そして、BtoBを辞めたことも辞めるつもりもなく、有難いことに、今でも多くの業者間取引をさせていただいております。
皆さんは、下請けという物に対して、どのようなイメージをお持ちでしょうか?
近年は、下町ロケットとか陸王とかみたいに下請けの立場の会社のサクセスストーリーのドラマが大ヒットしたりというのもありますけど、やはり、よくドラマなんかで描かれる下請けのイメージとしては、取り引き先に無茶な要求をされて断ったら、取り引きの打ち切りを通告されたり、嫌がらせをされたり・・・みたいなのが多いんじゃないですかね?
なので、世間一般の価値観として、「下請け」という物に対してネガティブなイメージを持っている方も多いんじゃないかと思います。
先程、大ヒットした下請けのサクセスストーリーを描いたドラマのことに触れましたが、現実世界でも、下請けだけだったお店や会社がBtoCを始めて下請けオンリーから脱却したというサクセスストーリーは、世の中でウケる話として取り上げられることが多いようです。
ボクも下請けオンリーから自力で脱却したので、他のお店や会社、特に職人さんのそういう話には興味をそそられるのですが、時々見かける話の内容に、ちょっと違和感を覚えることがあります。
下請け=惡だと決めつけている??
下請けオンリーから脱却した場合、当事者が語る話として、下請け時代はこんな酷い目に遭っていた、こんな理不尽なことをされた・言われた、などの話がなされていることが少なくありません。
そして、世間一般の人は、そのような状況からのサクセスストーリーが好きなようです。
それは、先に触れたドラマの大ヒットを見ても明らかです。
もちろん当事者の話ですから、下請けで理不尽な扱いをされたというのは嘘ではないでしょう。
その悔しさや憤りを糧にして、下請けからの脱却を成功させたんだと思います。
ですが、自らの意思で取り引きをしていた取り引き先を、あたかも悪事を働いている会社のように悪し様に罵るのは、ちょっと違うんじゃないか?とも思うんですよね。
そもそもの話として、取り引きというのは、お互いに対等な関係です。
発注側は自社で出来ないことを下請け業者に依頼して、物やサービスを受け取った対価としてお金を支払う。
下請け側は、自社で作る物や行うサービスを発注側に提供し、対価としてお金を受け取る。
ですが、仕事を発注してお金を払う側が、受注側に対して取り引きの中止などを匂わせて(匂わせなくても、それを想像するのは間違いないですよね)、無理な値引き要求、支払いの長期化(着物業界では、しばしば長期の手形が問題になりました)、納期などの無理難題を言ってくることなどは、当たり前のようにどの業界でもある構図です。
それ自体は、やはり発注側に責任というか、もっとぶっちゃければ、自社の利益のみを考えて取り引き先のことを蔑ろにする悪意があると思います。
それでも、それはあくまで商取引であって、奴隷契約ではないんです。
その仕事を受けるのも受けないのも、下請け側の自由なんです。
ボクも、あまりにも割に合わないことばかり要求してくる取り引き先は、今までに何社も取り引きを辞めました。
下請けにも、「こんな理不尽なことに付き合ってられるか!ヴォケーーーーーー!!!」と叫んで、その取り引きを辞める権利はあるんです(契約書の関係は知らんけど)
なのに、理不尽な要求をされて、愚痴や文句を言いながらも取り引きを続けてきたのは、紛れもなく下請け側の当事者ですよね。
自分の意志で取り引きをしてたのに、下請けから脱却したからといって「下請けは惡だ!!」みたいに喧伝するのは果たしてどうなんかな?と。
下請け脱却を目指す、その目的は?
下請けは、全てにおいて発注側の言いなりという状態の下請け企業も少なくないと思います。
なので、このままではいけないと思い、下請けオンリーからの脱却を目指すのはある意味自然な流れだと思います。
ボクも10年以上前、その頃はBtoBのみでも何とか経営は成り立っている状態だったんですが、「このまま何もせずにいたら、経営危機に陥るのは絶対間違いない」という自分の直感を信じて、BtoBのみの商いからBtoCもする商いへと船を漕ぎだしました。
そして、下請けオンリーからの脱却を目指したその目的は、「仕事(利益)の入ってくる窓口を増やす」という目的でした。
下請けオンリーの場合、自社の能力の関係もあり、だいたい決まった取引先が何軒かあるというのが普通だと思います。
そして、その取引先の自社に占める売上の割合は、間違いなく均等ということはないはずです。
うちもそうで、一時は1社の売上が全体の約半分を占めていることもありました。
もちろん、大きな売上をもたらしてくれる取引先は、非常に大事で有難い存在です。
ですが、客観的かつ冷静に考えてみると、その状態は、自社(自分)の運命を他人に預けている状態に他なりません。
だって、考えてもみてください。
その売上の半分を占める取引先が、永遠に自社と取引を続けてくれる保障ってあります?
もしくは、取引を切られなくても、取引先の経営状態によって、発注量の大幅な減少や、場合によっては廃業などを決断されることもあります。
もしそんな事態になった時、その取引先で成り立っていた売上をすぐに取り戻すことが出来る会社が、果たしてどれだけあるでしょうか?
ボクは、間違いなく無理だと思いました。
なので、「下請けを辞めるのではなく、新たに仕事が入ってくる窓口を増やそう。そうすることで経営の安定化を図り、良いお取引先、良いお客様とだけ仕事をする経営力をつけよう」という目的のために、下請けオンリーからの脱却を目指したわけです。
ボクの場合、下請けオンリーからの脱却は明確な目的があったので、下請けを辞めるという選択肢はありませんでした。
ですが、世の下請けオンリーからの脱却を目指す方たちを見聞きしていると、その目的が明確ではなく、単に「取引条件などが悪いので、一般消費者に販売をしてもっと高い単価で物やサービスを売りたい。」と考えている方が多いような気がするのです。
ボクは実際にBtoBのみからBtoCも行なう業態へと自らの力で変えてきたので、その事を語る資格はあると思うんですが、誤解を恐れずにいうと、一度契約すれば待つだけで仕事がやってくるBtoBと違い、自分で集客しないと仕事が来ないBtoCって、大変なんですよ。本当に。
特に、長年BtoBしかしてこなかった人がいきなり出来るほど、BtoCの集客って甘くも簡単でもないですよ。
ですから、下請けオンリーからの脱却を目指すのであれば、その目的は何か?というのはしっかりと設定することが必要ですし、何となくという程度であれば、いっそ何もしない方が良いかもしれません。
「今の環境を変えたい」というのは大事な考えだと思います。
BtoBだけでなく、下請けオンリーからの脱却を目指すというのも素晴らしいことだと思います。
ですが、その目的が曖昧であるぐらいなら、環境を変えずに出来ることもたくさんあるんじゃないかな?と思います。
例えば、取引先にもっと自社と取引をするメリットを認知してもらい、その上で適正な単価をもらえるようにプレゼンするとか。
または、今の取引先の条件があまりにも悪いのであれば、もっと自社を認めてくれて尊重してくれる新たな取引先を開拓するとか。
今はネットという強力な情報発信ツールがありますから、ネットで自社の情報を発信するだけでも何かが変わるかもしれません。
うちも、自社のサイトやブログ、あるいはSNSを見てお問い合わせをいただく企業さんというのは多いです。
何となく今の環境から逃げるために下請けオンリーからの脱却を目指すぐらいなら、下請けのままでもっと良い環境へと変えるのを目指すのもアリだと思います。